(チューリップ)
俺がたるとの実践をはじめて見たのは、あの『亡国』の任務の時だった。
無謀だった。いくらなんでも、たると独りで一つの国を滅ぼすということなど、到底出来はしない。
卯階堂はそれをわかった上で、たるとに任務をあたえたのだ。ただ、あの武器を持たせたたるとが、どこまで出来るのかを試すために。
だから俺は自分の任務を放棄してまで、たるとのいる場所へと向かった。
しかし、そこで目にした光景は、とてもこの世のものだとは思えない悲惨な現実だった。
血と肉の混ざる死の水たまりの中で、たるとは横たわっていた。
俺はたるとの首と背中に腕をまわし、その小さな身体を抱きかかえた。
たるとの名を何度呼んだことか。
たるとの目が開いた時には、まさに奇跡かと思った。
(あともう少しの辛抱だ・・・っ!)
しかし、次の瞬間、たるとの口から出た言葉に俺は我が耳を疑った。
「殺してください・・・」
一瞬、その場の時間が止まったかのように感じた。
(こんな小さな身体で、こんなになってまで・・・)
俺は、胸の奥底から込みあげる何かを感じていた。
「よく頑張ったな、今まで苦しかったろう」
たるとは、俺に似ていたのだ。
俺がまだ若かったころ、アクアにいる特殊部隊候補生の中で俺は成績の悪い劣等生だった。そこにいた全員が、俺を馬鹿にした。
俺はそいつらを負かしてアクアの特殊部隊の隊長になることが、いつしか俺の目標になっていた。
必死だった。ただただ、その先にあるものにしか目をむけず、ひたすら突き進んだ。
隊長の座。それこそが俺のいるべき場所、俺の居場所なのだと・・・。
(殺してください・・・)
もし俺が隊長になれなかったとしたら、きっとこんなことを言っていたに違いない。
自分の生きる意味を失って、死にたいと思っていただろう。
だが、俺は隊長になり、そして同時に気がついてしまったのだ。
隊長になっても、たとえこの世の中で一番になったとしても、それはなんの意味も無いのだということを。
競い、奪い、力尽くで地位や名誉を手にしたとしても、そこには虚しさやさらなる苦しみしかなかった。
隊長になった時、俺はすべてを失っていたのだ。
たるととはじめて出会ったのはそんな時だった。
新しい副隊長が任命され、俺はその会見の場へと足を運んだ。
そこに居たその少女は、とても小さく、そして冷たかった。
少女の目の奥には何も映ってはいない様子で、ただ俺の前で立ち止まると、副隊長になったということだけを告げて立ち去ろうとしたのだ。
「名前は?」
少女は立ち止まって静かに答えた。
「ありません」
「なら、俺が名づけてもいいか?」
「はい」
「・・・たると」
「えっ・・・」
その時、はじめて少女の瞳の中に光が見えたような気がした。
ただ、唖然(あぜん)としている少女。それこそが、ごくあたりまえの感情なのだから。
その少女の光が、今、潰(つい)えようとしている。
何も知らないで、ただそれだけが自分が生きている証なのだと信じている、無邪気で純粋なだけの命が。
「たとえ、たるとに力や能力が無かったとしても、たるとはたるとなんだ。生きていてくれるだけで、それだけでいいんだ」
俺はたるとを抱きかかえ、アクア医療班へと全速力で走った。
ただ、生きていてほしい。
そして、怪我が治ったらいつかアクアを出て、一緒にいろいろな所に旅にでも行こう。いろいろな自然を見てまわり、いろいろなおいしい物を食べて、そしていつでも笑顔の絶えない時間(とき)を一緒に過ごすんだ。
その時から、俺はアクアへの想いは消えたのだ。過去の俺と共に。
(聖美)
「この先で、隊長と待ち合わせる予定になっています」
たるとちゃんの向かう先には、上まで見上げるほどの大きな扉が目の前に佇(たたず)んでいた。
「ここです」
たるとちゃんは、両手でゆっくりとその扉を開いた。
「りうちゃんっ!」
扉の先には、りうちゃんが独りでうずくまりながら座っていた。めうちゃんはまっさきにりうちゃんの方へと駆け寄った。
「どうしたのっ?独り?」
めうちゃんの問いに、りうちゃんはふるふると顔を横に振った。
「みうと・・・喧嘩しちゃった」
りうちゃんの瞳は、涙で真っ赤になっていた。
事の詳細を聞くと、めうちゃんはぎゅっとりうちゃんを抱きしめた。
「ごめんなさい・・・私がこんなものをりうちゃんに渡したばっかりに・・・」
こんなものとは、りうちゃんが持っているこの武器のことを言っているのだろう。
「違うの・・・私・・・自分のことで精一杯で・・・みうのこととかみんなのこと、全然考えてあげられなかった・・・」
その時、りうちゃんの瞳から一筋の涙が流れた。
「私・・・どうしようも無い馬鹿だわ」
「全然そんなこと無いわっ。りうちゃんは、精一杯頑張っただけだもの。みうちゃんも分かってくれる。みんな、りうちゃんのこと、分かってるから・・・っ」
気づくと、私とたるとちゃんは、自然とりうちゃんの体に手を添えていた。
「とりあえず、みうちゃんを探しましょう!」
みうちゃんは隊長が追ってはいるというものの、この近くにはすでにその気配は無かった。
「むやみやたらに動くより、ここで待っていた方が良いわ。体力も消耗しているし・・・ここで少し休みましょう」
私がそういうと、みんなはその場でりうちゃんと壁を背に横一列になるように座った。
しばしの静寂が、私達を包み込む。
「そういえばっ・・・私、非常食にとにんじん持ってきたの」
めうちゃんが今まで大事に抱え込んでいた『うたろう』の背中から、ごそごそと手を入れて探り始めた。
「あった!」
そこには、にんじんが一本。みうちゃんが見たら、どんなに喜んで飛びついてくることだろう。
めうちゃんは、それを均等に四等分に割り、それをみんなに分けた。
「おいしい・・・」
みうちゃんは、このにんじんには愛がこもっていると言っていたけれど、本当にそうなのかもしれない。そう言っていいほどこのにんじんは美味しかった。
ドォォン!!!
私達は突然音の鳴った上の方へと顔を見上げた。
「卯階堂のいる部屋です!」
たるとちゃんの声と同時に、みんな一斉に立ち上がった。
「行きましょう!」
何か嫌な予感がする。もしかしたら・・・
私達は、上へと通じる階段を駆け上った。
(みんなを傷つける卯階堂・・・絶対に許すわけにはいかないわっ!)
腰にある剣を、私は力いっぱい握っていた。
爆発音の響く中、私達は卯階堂のいる場所へと向かった。
(りう)
膝を曲げて頭を抱え込む形で、私は独り涙を堪(こら)えていた。
(みうはただ、心配していただけなのに・・・ただ、心配してくれていただけなのに・・・っ)
私はその気持ちをどうすることも出来ず、無意識のうちに額(ひたい)を自分の膝に強く押しあてていた。
痛くは感じなかった。
それよりも、ただ、みうのことを想うだけで心が張り裂けそうになった。
その時だった。突然、ドォォンという爆発音が地響きと共に私達の周りに鳴り響いた。
はっとして頭を上げると、まわりにあった物や壁、部屋全体が揺れているのが分かった。
「卯階堂のいる部屋です!」
涙で視界はボヤけていたけれど、私はなんとか精一杯立つことが出来た。
「行きましょう!」
私達はたるとちゃんを先頭に、爆発音の鳴った卯階堂のいる部屋へと続く階段を駆け上った。階段には、煙のようなものが立ち込めている。
とてつもなく嫌な予感がした。
みうの顔が、一瞬脳裏を横切った。
(みうっ・・・みうっ・・・)
私は走りながら何度もみうの名前を心の中で呼び続けた。
視界を遮(さえぎ)っていた涙をぐっと拭(ぬぐ)った。
視界が元に戻る。私の意識も、次第にはっきりとしてくるのが分かった。
(もし、この上にみうがいるのなら・・・絶対に助けてあげるから・・・っ!)
階段の最上部に辿り着いた私達は、その扉を前に皆息をひそめていた。そこにいる全員が、静かにその扉へと手をあわせる。
そして、ゆっくりと、その大きな扉は開かれてゆく。
私の右手には、卯階堂の創り出した武器が、ひしと握られていた。
(たると)
ゆっくりと開いた扉の隙間から、もくもくと黒い煙が私達の頭上を掠(かす)めていきました。
いったい、この部屋の中で、何が起こっているというのでしょう。
私の心臓は、いつもより速いリズムで高鳴っていきました。
一歩一歩、確実に前へと進んで行くと、その黒い煙の奥に、何かの影のようなものがうっすらと見えたような気がしました。
「誰かいるわ・・・」
聖美さんの声で、皆その先へと視線を向けました。
その時、ふと一瞬だけ黒い煙の中に隙間ができ、その影が姿を現したのです。
私はその影の正体を見たとき、心臓が締め付けられるような想いに駆られました。
その影の正体は、隊長だったのです。
隊長は、ただその場に立ち尽くしていました。黙々とたちこめる黒い煙の中、その行為はあまりにも不自然としか思えませんでした。
私は、隊長のそばまで急いで駆けつけました。
そして、ぎゅっと隊長の腕を握ると、そのまま隊長は私に引っ張られる形になってその場に倒れこんでしまったのです。
「隊長っ!隊長・・・っ!」
私は何度もそう呼び続けました。
すると、隊長の瞳がうっすらと開いたのです。
「隊長・・・っ!」
私の瞳からは涙がこぼれ、隊長の頬へと伝わりました。
隊長のお腹にあったその傷は、決して軽いものでは無かったのです。
しかし、隊長はその血に塗(まみ)れた手で私の頬をゆっくりと撫でながら、こう言いました。
「あの時と逆になってしまったな・・・」
隊長は、微かに笑っていました。
「隊長・・・大丈夫です。今度は私達が助けに来ましたから」
この時の私は、ちゃんと微笑(ほほえ)んでいられたのでしょうか。
「相手は・・・手ごわいぞ」
「慣れてます」
仇(かたき)は、目の前に。
私は神経を研ぎ澄ませました。まるで、赤い血のついたそれでも光り輝く聖剣のように。
(チューリップ)
後ろも振り返らずに、ただ自分の想いをぶつけるかのように走って行くみうちゃん。
たんったんったんっと、階段を勢いよく駆け上がっていく。
「みうちゃんっ!」
俺とみうちゃんとの距離は依然として離れていて、その声はみうちゃんに届くことはなかった。
そして、やっとの思いでみうちゃんに追いついた時には、みうちゃんと俺はアクアの屋上にまで駆け上がっていた。
「みうちゃんっ・・・りうちゃんは本心じゃないんだよ。りうちゃん、本当はあんなこと思っていないんだ」
「分かってるぴょん・・・」
みうちゃんはそう言うと、何も見えることのない空を見上げた。辺りには暗闇に包まれた深い霧が立ち込めている。
気配だけを頼りに、俺はみうちゃんのすぐ近くまで歩を進めた。
「みうちゃん・・・」
「大丈夫ぴょん。りうちゃんの所に戻るぴょんね」
その時だった。近くに俺とみうちゃんではない他の誰かの気配を感じたのだ。
「みうちゃんっ、その扉の中で隠れているんだっ」
「えっ・・・!?」
俺はみうちゃんを近くにあったその扉の中に入れ、その場から少し離れた場所で気配の感じる方へと意識を集中させた。
コツッ・・・コツッ・・・コツッ・・・
靴がコンクリートに擦(す)れる音が、確かにこっちへと近づいている。
「誰だ・・・?」
深く、暗い霧の中から、うっすらと影が浮かんできた。目の前、2〜3メートルといったところか。
「目標確認」
その声と同時に、パチッという電気の散る音が聞こえた。
俺は、すぐ横へと飛び跳ねた。
ドォォン!!!
爆発音と共に、屋上の地面が大きく割れ、俺もその床(ゆか)と共に下へと落ちていった。
俺はその一つ下の階に、そのまま勢いよく叩きつけられた。
「くそっ・・・」
俺は膝(ひざ)に肘(ひじ)をあて、すぐに立ち上がり、腰に添えてあった武器に手をあてる。
「使わせません」
それは、突然耳元でささやいた。
ドスッ!
辺りは一面の砂埃(すなぼこり)で、視界は皆無に等しかった。だが、俺の横腹に刺さっている剣だけは、はっきりと見えた。
みうちゃんは無事だろうか・・・。
俺は上を見上げ、ただみうちゃんが無事でいてくれることを祈った。意識が、少しずつ薄れていく中、目の前にあの懐かしい顔が浮かぶ。
(幻・・・じゃないだろうな・・・)
そこにいたのは、まぎれもなく、たるとだったのだ。幼さの残るその顔は、瞳いっぱいに涙を浮かべ、俺を抱き上げていた。あの、細く、かよわい腕で。
(みう)
チューリップさんに促(うなが)されて入ったお部屋は、とっても暗いお部屋だった。
暗闇が部屋の奥の方から、手招きをしているみたいだった。みうの息づかいだけが聞こえてくる。
チューリップさんのいる扉の向こうへと耳をすましたけれど、物音一つ聞こえなかった。チューリップさんは、何か危険を感じているみたいだったけど・・・大丈夫かな。
その時、ふいに「独りだ」という思いが頭をよぎった。・・・なんだか急に怖くなっちゃったのぴょんっ。
そんなことを思っていると、ブワンという音と共に、お部屋に明かりが点いた。
「わぁー、広いお部屋ぴょんっ」
そこは本棚が所狭しと置かれているお部屋だったけれど、しばらく誰にも使われていない感じがした。
部屋の奥へと進んでみると、その突き当たりにある机の上に日記帳のようなものが埃(ほこり)をかぶったまま置いてあった。
「誰のぴょん・・・?」
本の表紙には、誰の名前も、題名も書かれていない。みうは、つい最初のページをめくっちゃいました。
『・・・心の底から、愛している』
「んぴょんっ!!!」
は・はずかしいのぴょん!誰がこんな日記書いたのぴょんっ!
一度はその日記帳から手を離したものの、気になってしかたがないのぴょん。
・・・そろ〜り。
二枚目をめくりました。
『変えてみせる。君も望んでいた世界に。 ――― もうこの世にはいない君へ』
そう書かれていたのを最後に、あとは白紙になっていた。
みうは、静かにその日記帳を閉じた。
その勢いに煽(あお)られた風が、ふわっと埃を宙に浮かせた。
「けふっ・・・けふっ・・・」
顔を横に向けて咳(せ)きこんだみうの目の先に、微かに点滅しているものがあった。みうは気になって、近づいてみた。
「なんなのぴょん・・・この機械」
天井まで高く積み上げられた機械が、ただ静かにその場所に存在していた。
その下の、ちょうど腰あたりの所に、小さな丸い形をした古ぼけた赤いボタンがある。
「なんのボタンぴょん・・・?」
ポチ。
『 ―――自爆装置起動。残り三十分』
「んぴょんっ!!!?」
その瞬間、みうはチューリップさんのいるところへと走った。
大変ぴょんっ!大変なことになっちゃったのぴょんっ!!!
「チューリップさんっ!」
けれど、勢いよく開けたその扉の先にいたのは、チューリップさんじゃなかったのぴょん。
「未確認生物発見。捕獲します」
みうは捕らわれの身になってしまったのぴょん。
(りう)
「ここまで辿り着けるとは思ってもみなかったよ」
私達のいるこの広い部屋の、高さはおよそ二階建てぐらいあるだろうか、その上方に位置するガラスに遮(さえぎ)られた部屋から、卯階堂は薄気味の悪い笑顔を見せた。
「最初に攻めてきたのはアクアの方でしょ!卯階堂っあなたの目的は何っ!?」
「目的?」
相変わらず、卯階堂は薄気味の悪い笑顔を浮かべている。
「人類滅亡。そして・・・俺だけの世界を創る」
そう言うと、卯階堂は顔にかけていた眼鏡の位置を右手の中指で直しながらこう続けた。そのために、愛さ達が邪魔だったのだと。
「愛さこい村のみんなは、心のやさしい持ち主ばかりぴょん!」
どこかで聞いた声が、ガラスの奥の方から聞こえてきた。
「みうの声だわ!」
私は、精一杯の力でみうの名前を叫んだ。
「んぴょんぴょんっ!」
この反応。確かにこの声は、紛(まぎ)れも無いみうの声。
「みうに何したのっ!?」
「何かしたのは、この愛さの方だ」
卯階堂の顔は、みるみるうちに怒りへと変形していった。
「あれだけはどうしようもない。ここもいずれ木っ端微塵になるだろう」
「自爆装置っていうの、押しちゃったのぴょん・・・っ!」
みうがガラスの向こう側から叫んでいた。その時、ふとその横に、みうの見張り役と思われるアクアの戦闘服に身を包んだ愛さの上半身が一瞬だけ見えた。
「まずは、この愛さから死んでもらおうか」
「みうーっ!!!」
その時だった。
ガラスの部屋に光の帯を惹(ひ)いた一筋の矢が、私達の後方から卯階堂めがけて突き刺さった。
私達は、その光の元を辿った。
「瑛緋さん!」
その時、突然、頭上からパリンッという音がしてその方向へと視線を移すと、そこには優希君がみうを抱きかかえる形で上から飛び降りてきた。
「間一髪っ!」
「遅いっ!」
私はみうが助かった嬉しさのあまり、みうを抱きかかえている優希君ごと、飛びついて抱きしめてしまった。
「よかったぁ・・・」
「りうちゃんっ」
みうはみるみるうちに涙目になっていくのが分かった。
「ごめんねみう。私、ぜんぜんみうの気持ち考えてあげられなかった・・・」
「みうが悪いのぴょんっ」
そう言って、両方ともついに涙を堪(こら)えきれずに泣き出してしまった。
「泣いている場合じゃないわ。早くここから逃げましょ」
めうちゃんがそう言って、私達の背中を抱きしめてくれた。
「私は卯階堂を追います」
「だめだ!深追いはするな。退散しよう」
たるとちゃんはその隊長さんの声に一瞬だけやりきれない表情を浮かべたが、すぐに隊長さんの手当てをしてくれた聖美さんと共に、隊長さんの肩を支え、出口へと歩き始めた。
私は一度だけ、卯階堂の居たガラスに覆われた部屋を見上げたが、すでにそこには卯階堂の姿は見当たらなかった。
『残り、20分』
機械音声が、部屋中に木霊(こだま)する。
私とめうちゃんは、みうの身体を支えながらゆっくりと歩き出した。
「優希君・・・みうを助けてくれてありがと・・・」
そう言うと、優希君は振り返ってこう言った。
「礼なら瑛緋に言ってくれよ。肩の傷を押し殺してまで、あの矢を引いたんだから」
優希君は言い終わると、瑛緋さんの方へと駆け寄って、その肩を支えていた。
・・・負傷者はいるけれど。
私達は、誰も欠けることも無く、みんな一緒にアクアの外へと向かうことが出来た。
卯階堂を倒すという目的を果たすことは出来なかったけれど、みんなが無事でいてくれればそれでいい。
私の周りには、こんなにも大切な仲間が、家族が居てくれる。それだけで、私はとても幸せなのだから。
そんなことを考えて、私はまた泣きそうになった。