9/6(さくら)
この子は変わりつつあるのかもしれない。
今日、私がこの子の部屋の横を通り過ぎた時、ふと、ベッドにいるこの子の様子を見てみると、その手の中には、あの愛さが作ったと思われるぬいぐるみがしっかりと握られていたのだ。
だが、まだ安心は出来ない。
この子はなぜ、このぬいぐるみに触れているのか。
何を思い、何を感じているのか。
変化が起こった今だからこそ、この子の今を慎重に見極める必要がある。
9/7(りう)
今日は、めうちゃんの家で愛さこい村大運動会実行委員だけの会議が行われる日。
私達は、大きなテーブルの上に愛さこい村大運動会の予定表を開きながら、なにか他に不備は無いかどうかを話し合っていた。
「だいたいこれで終わりよね。他に入れたい競技とかある?」
「これで、十分(じゅうぶん)じゃない?」
いままでずっと愛さこい村大運動会実行委員だっためうちゃんも、この予定でOKを出してくれた。あとは、他のメンバーがOKを出してくれれば愛さこい村大運動会の予定はほぼこれで決定したことになる。
ところが。
「んぴょん?ここ、入ってないのぴょんっ」
みうは予定が入ってない日があると、すぐに何かと競技を入れたがるのである。毎日のように、運動会していたいのだ。
「でも、もうほとんど競技入れちゃったから、他にやることっていったら・・・」
私が悩んでいると、今まで静かに愛さこい村の地図を見ていた聖美さんが、めうちゃんに話しかけた。
「ねぇ。ここ、この場所。なんにも描かれてないけれど、ここはただの森なのかしら」
その質問に、一瞬めうちゃんが戸惑ったのを私は見逃さなかった。
「う・うん。何にも無いと思うわ。うん」
怪しい。明らかに怪しい。
私はさらに突っ込みを入れることにした。
「ねぇ、みう。この場所、探検に行かない?そこに行けば、もしかしたら、何か新しい競技が思い浮かぶかもしれないし」
みうは「探検」という言葉に興味が惹(ひ)かれたのだろうか。嬉しそうに「んっぴょん!」という返事が返ってきた。
「じゃぁ、明日、この場所に探検に行きましょ。メンバーは、私とみう・・・で、いいの?」
めうちゃんを横目で見ながら、みんなに話しかける。
「私も行ってみたいわ。たるとちゃんも一緒に行ってみない?」
と聖美さん。
「はい。」
たるとちゃん、即答である。
独りあたふたしているめうちゃんをよそに、私達は、明日、愛さこい村の地図に何も記されていない場所へと探検することになったのだった。
9/8(りう)
そこは、辺り一面、木々に覆われ、太陽の光もほとんど遮(さえぎ)られてしまうほどに薄暗く無気味な森だった。
「な・なんだか、怖い所に来ちゃったわね・・・っ」
道無き道を、愛さこい村大運動会実行委員オンナノコんっぴょんチームの面々は、ほぼ縦一列に並んだ状態で、森の奥へと少しずつ入り込んでいった。
先頭を行くのはもちろんみう。地図に無い森を目の前にして、突然、自分から森に突っ込んでいった張本人である。
その後に私。勝手に森に入ってしまったみうを一番最初に追ったのが私。
そのあとにめうちゃん。たるとちゃん。そして、森に迷い込んだ際(さい)、一番怖いとされている最後尾は聖美さんである。
「んっぴょっん♪んっぴょっん♪」
みうのいつもの歌声が、静かな森に響き渡る。
「んっぴょっん・・・んっぴょっん・・・」
後(うし)ろから微かに聞こえる歌声は、きっとめうちゃんだろう。
私はふと、ここに来る前にめうちゃんの行動がやたら怪しかったことについて、少し聞いてみることにした。
「めうちゃん。ここって、本当にただの森なの?」
辺りは未(いま)だに薄気味悪い静寂を保っている。
「う・うん・・・」
めうちゃんは私の質問に肯定(こうてい)した。けれど、めうちゃんは明らかに嘘をついている、という確固たる確証を、その時、私はこの森の中で手にしていたのだ。
「じゃぁ、聞くけれど。この目印みたいなの、何?」
そう。私達の行く森のあちこちには、まるで私達をとある場所へと導いているかような目印が森の奥へ奥へと続いていたのだ。
「そ・それは・・・」
めうちゃんは、ようやく観念したように口を開いた。
「実はね、この奥に、とってもへんてこで危険な建物があるの・・・」
私は「へんてこ」という言葉が妙に面白可笑しくって、つい「ふふっ」と笑ってしまった。けれど、よく考えてみると、その後にめうちゃんは「危険な建物」と言ったのである。元アクア特殊部隊の聖美さんやたるとちゃんがいるにもかかわらず、今までずっと私達にはその存在を知らせなかった建物。
私は、その建物が本当に危険なのかもしれない、もしそうなのだとしたら、みうの好奇心が抑えられなくなる前に止めておこうと判断した。
「ねぇ、みう。やっぱり、これ以上は迷子になっちゃ・・・」
とみうの方へと視線を移したのだが、その時にはすでに、そこにみうの姿は消えて無くなっていたのである。
「あそこです」
たるとちゃんが森の奥の方へと指を伸ばした。私はその指差された先へと視線を走らせてみると、みうはすでに私達の居る場所よりはるか前方に、しかも走りながら前へと進んでいたのである。
「みうってばーっ!!!戻ってきてー!」
私の声が届いているのかいないのか、みうはひたすらに森の奥へ奥へと突き進んでいる。
「大変っ、みう捕まえなくっちゃ!」
こうして、私達の『みう捕獲大作戦』は幕を開けたのである。
『みう捕獲大作戦』(りう)
みうを追いかけて、やっとのことで追い着いたその場所には、とても小さな、そしてかなり昔に建てられたのであろうと思わせる苔(こけ)に包まれたコンクリート製の建物、というよりむしろそれは何かの入り口、のようなものがひっそりと佇(たたず)んでいた。
「ねぇ。これって・・・何?」
私の質問にめうちゃんは何かを言いたいのだろうか。けれど、めうちゃんはその先は口に表さず、なぜか躊躇(ためら)っている。
私はめうちゃんに近寄り、その小さな瞳のある目線の位置まで自分の瞳の位置を落とし、逃げられないようにしてめうちゃんに問いかけた。
「めうちゃん。私、前に言ったわ。私達の間では隠し事は無しよ、って」
そう、私達はもう昔の私達ではない。今では家族として、そして愛さこい村大運動会実行委員オンナノコんっぴょんチームとして、一緒に生きている仲間なのだ。
それを聞いためうちゃんは「そうね」とだけ言うと、その入り口の前まで歩み寄る。そして、その入り口をただじっと見つめていた。
「この建物はね・・・昔の人間が造った、いわば博物館みたいなものなの」
そう言うと、めうちゃんはゆっくりと私達に振り返って、こう続ける。
「今では、もう、消えた文明だけれどね」
悲しそうな瞳をしてめうちゃんは言った。そんなめうちゃんに、聖美さんは笑顔で歩み寄る。
「じゃぁ、今日は、昔の社会見学ね」
みうは、そんな私達の会話を聞いているのかいないのか、せっかく捕まえたというのに、うろうろしながらその建物の扉の前まで近寄ると、勝手にその扉を開けようとしたのである。その時だった。
ウィーン・・・
「んぴょんっ!?」
扉が勝手に開いたのである。その中には、小さな空間が一つ。
みうがその中に飛び込んでいくのを追うようにして、私達もその建物の中へと入っていったのだった。
『みう捕獲大作戦』(聖美)
その空間は、私達を地下へと運んでいるようだった。
「地下に・・・博物館?」
私の声は、すでにめうちゃんには届いていない様子だった。めうちゃんの身体は、ただ、移動するこの空間の扉の方だけに向けられていた。
しばらくすると、私達のいる空間は微量の重力を伴(ともな)って、何処かに到着した。
静かに、その扉が開く。
「ようこそ。第三未来都市、マザーアースへ」
すると、そこのは一人の少女がいた。
ゆっくりとお辞儀(じぎ)をした後、少女はゆっくりと目の前に広がる真っ暗な空間へと進んでいく。
「めうちゃん・・・」
りうちゃんの不安そうな言葉のあとに、私達は妙なことに気がついた。
「動いてる・・・」
気づくと、私達の周りにあった壁や扉はいつしか消えてなくなり、辺りは宇宙空間と思わせるような暗闇へと姿を変えていたのだ。視界の全てに星が輝き、私達を見送っていた。私達はまるで宙を飛んでいるかのように、ゆっくりと先へ先へと進んでいる。
気づくと、先ほどの少女の姿はいつの間にか消えていた。
「私達・・・いったいこれからどうなるの・・・?」
りうちゃんの不安そうな声が聞こえた矢先である。私達の進む斜(なな)め前方から、なにやら大きな惑星達が近づいてきたのだ。
その直後、どこからともなく、先ほどの少女の声がこの空間に響き渡った。
「私達の住む、この第三未来都市、マザーアース。一度はその光を失った星に、私達は命を吹き込みました。そして、今―――・・・」
その声の余韻(よいん)の残る最中(さなか)、私達は目の前に広がった蒼く光る星の元へとものすごい速さで舞い降りたのだった。
「素晴らしき世界へ、ようこそっ ――― 」
『みう捕獲大作戦』(りう)
気が付いたら、私達は空中浮遊しているかのように、その少女の周りでふわふわと空を漂(ただよ)っていた。
「ここはマザーアース。私達が理想郷と呼んでいる星です」
そこにはとても現代のものとは思えないぐらいの、とてつもない科学技術が使われているのであろう立派な都市が私達を見上げていた。
私が関心しているのも束(つか)の間、案内役と思われる少女の話は続いた。
「あそこに見えてきました。あれが私達の今回の目的地でもある、マザーアースの首都、ロレンツィオです。人類初のシャトル打ち上げ型多層未来都市計画を実施したことにより、現在、急激に発展しつつあります。それでは、その発展した都市の内部を見学することにいたしましょう」
そして、視界はまた、急激に変化することとなる。
「みんな。絶対に離れないでね」
めうちゃんの声が、微かに響いた。けれど、私はその声をすぐに忘れてしまうほどに、次の瞬間には目の前の光景に圧倒させられていたのだった。
「綺麗・・・」
そこには、すべてが華やかに、それでいて清潔にデザインされた町並みと豊かな緑が、視界一面に広がっていたのである。
「シャトル打ち上げ型多層未来都市計画により、私達の住む世界は、3層に分けられました。今、私達の見ている層が丁度中間にあたる、ミドル層と呼ばれている所です。私達の暮らしの大部分がここで行われています」
私の視界には、町の人々の暮らしや立派な建物、綺麗に整ったその町並みが見渡すかぎりに映し出されていた。
「この場所に全ての物が運び込まれ、今や、手に入らない物は無いと言われるほどにもなりました。しかし、その一方で、逆に手に入りにくくなってしまったものがあります。それは自然です。このミドル層の一つ上の層、ネイチャー層では、その自然をありのままに再現して、私達の憩(いこ)いの場として利用されています」
次の瞬間、私達は上空へと風に乗って舞い上がり、今度は、視界一面に森や湖、そして鳥のさえずりまでもが聞こえてくる素敵な光景を目(ま)の当たりにしていた。
「いかがでしょうか。ここにある自然はすべて人工で造られたものです。人類最大の発明ともされています」
まさに、人類最大と言っても過言ではないと思った。その光景は、愛さこい村で見る光景と、まったくと言ってもいいほど一緒だったのだから・・・。
「一番下にある層、アンダーグラウンドとも呼ばれている地表層では、私達の暮らしの中で排出したゴミ等を処分する場所となっております。では最後に、このロレンツィオの要(かなめ)でもある、スペースシャトルの道、へご案内いたしましょう」
案内役の少女がそう言うと、今度は町の中心から遥か上空へと聳(そび)え立っている建物へと私達はゆっくりと近づいていった。
「この都市の真ん中を貫いて遥か上空にまで聳え立っているこの建物こそ、この都市の最大の魅力でもあり、また誇りでもあるスペースシャトルの道、スペースシャトルの発射台です。遥か宇宙にまでシャトルを通す道を創(つく)ることによって、簡単に宇宙の行き来が自由に行えるようになりました。そして、この道を支えている土台こそが、この多層未来都市、ロレンツィオなのです」
私はその光景に完全に見惚(みと)れていた。胸の何処かで、ときめきに似た感情を抱いていたのだった。
「さぁ、今、シャトルが打ち上げられます。ご覧下さい」
その瞬間、ものすごい勢いで、光を帯(お)びたその物体は空高くへと舞い上がった。
「すごい・・・」
私は空高くまで舞い上がるその輝きを、ずっと、見上げていたのだった。
『みう捕獲大作戦』(聖美)
「では最後に、このロレンツィオを、皆様の好きなように探検していただきたいと思います」
案内役の少女はそう言うと、私達と共に町のとある大きな噴水(ふんすい)のある広場へと降り立った。
「出口はあちらです。では、どうぞ心行くまでお楽しみくださいませ」
出口はどうやら、シャトル打ち上げ発射台の真下にある扉がそうらしい。案内役の少女はその後、ゆっくりと宙へと消えていった。
「めうちゃん、ここは・・・」
私の声に、めうちゃんが答える。
「実はね。私にも正直分からないの。なんでこんな物がここにあるのか。なんの目的で造られたのかも・・・」
「でも、この映像って、過去に創られた街を再現したものじゃないの?」
私の質問に、しばらくの静寂が辺り包み込む。
「・・・本当のことを言うとね。それも分からないの。ただ、私の調べた限りでは、今の世の中にはこんな街、存在していないわ」
「存在していない・・・」
私達のまわりには、いつしか不安という重い空気が漂っていた。その時である。
「ちょっと探検しに行ってくるのぴょんっ!」
「みうってばっ待ちなさいっ!」
「みうちゃんっ!りうちゃんっ!離れないでっ!」
そんなめうちゃんの声も届いているのかどうか、みうちゃんとりうちゃんの姿は瞬く間に何処かへと消えていってしまったのだった。けれど、ここが閉鎖された空間ならば、いずれはみうちゃんもりうちゃんも見つけられるはず、と思われた矢先である。
「人は時に、自分の欲望のためだけに、全く意味も無い物を造ったりします。その目的は様々(さまざま)です」
たるとちゃんの言葉に、私達の身体が一瞬だけ、その動きが止まった。その後に、こう続けて・・・。
「それは時に、自分が楽しむためのアトラクションだったり・・・。その他には・・・実験・・・だったり・・・」
「大変!みうちゃんとりうちゃん、早く呼び戻さないとっ」
私達は、みうちゃんとりうちゃんが向かっていったであろうと思われる方へと追って走り出した。
「とりあえず、集合場所はこの噴水広場だからっ!」
めうちゃんがそう言うと、突然、めうちゃんの身体が宙に浮き、上空へと舞い上がったのである。
「自由に動けるからーっ!」
めうちゃんも相変わらずのおてんばである。
私もその声を信じて、とりあえず、自分の身体が宙に浮いている状態をイメージしてみた。すると・・・
ふわ。
「わっ」
ゆっくりと、宙に浮いたのである。しかし、問題はそこでは無い。
(もし、この建物がとある実験のために造られたのだとしたら・・・)
私は、不安を隠しきれないまま、みうちゃんとりうちゃんを探しに向かったのだった。
『みう捕獲大作戦』(りう)
みうを抜かした愛さこい村大運動会実行委員オンナノコんっぴょんチームの面々は、噴水広場に集合していた。
「みう、何処行っちゃったのかしら・・・」
みんなでみうを探したけれど、結局、誰も足の速いみうに追い着くことは出来なかったのだった。
(この建物、この空間は、とてつもなく広い。こんなところで、みうを迷子にさせちゃったら、一生探せ出せなくなってしまうのではないだろうか・・・。)
そんなことを考えていたら、少しだけ涙ぐんでしまっていた。
「大丈夫。この中にいるのだけは確かなんだから」
聖美さんがそう言ってくれたおかげで、気持ちが少し、和(やわ)らいだ。
けれど、現状はこのままでは何も変わらない。
どうすればいいのか悩んでいると、たるとちゃんが上を見上げながら私達に言った。
「みうさん、もうこの層にはいないのでは」
みんなが「まさか」という様に、それぞれの顔を見回した。
このミドル層には、街の彼方此方(あちこち)に上の層へと繋(つな)ぐエレベーターらしきものがある。
「とりあえず、上の層にも探しに行く必要はあるわね」
聖美さんの声と同時に、私達は上空へと細長く続く、それはまるで蜘蛛の糸の様にも見えるその建物へと、走り出したのだった。
『みう捕獲大作戦』(りう)
ネイチャー層へと着いた私達は、まず作戦をたてることにした。
その理由は、このネイチャー層は大自然をそのままに再現されているために、それはみうにとってみれば、まさに行動範囲は無限大のんぴょんぴょん!だからである。
・・・ごめんなさい、変な言葉で表現しちゃって。
「でも、こんな大自然の中を、どうやって探せばいいのかしら・・・」
「せめて、どの範囲にいるのかぐらい分かればいいのだけれど」
めうちゃんも、私と同様、良い作戦はなかなか思い浮かばない様子だった。
その時である。
とん。とん。
聖美さんが、腰にある刀の鞘(さや)を地面に突き鳴らしながら、とある方へと向かってゆくのである。そして立ち止まると、ゆっくりと刀を正面の方角へと指し、こう言ったのだった。
「こっちじゃないかしら」
みんなが不思議がっていると、たるとちゃんがその説明をしてくれた。
「ここにみうさんらしき足跡があります。そして・・・」
その時、聖美さんの方角から、優しくて甘い風が私達を吹き抜けていった。
(優しくて甘い・・・)
「ま・まさか、甘い匂いがするからって、独りで勝手に行っちゃうだなんて・・・」
みうだったら、ありうるっ!!!
「とりあえず、行ってみましょ!」
全員で、また走りながら、みうを追うこととなったのである。
『みう捕獲大作戦』(りう)
その最後は意外とあっけないものだった。
「みう いたっ」
みうは、野原の真ん中で独り蹲(うずくま)っていたところを私達全員で一斉(いっせい)に捕獲された。
なぜこんなところにいたのかと疑問に思ったのも束の間、みうの手の中にはいっぱいの人参が握り締められていたのである。
「もうっ、いっぱい探したんだからねっ」
みうの肩をおもいっきり揺さぶりながら言った。
「んぴょんぴょんっ!吐いちゃうのぴょんっ!」
みうは見た目通り、元気そうである。
はぁ。あんなに心配して、いっぱい走って・・・私達、馬鹿みたいじゃない。
次の瞬間、思わず私はみうに抱きついていた。その後に、めうちゃんも。そして、聖美さん、たるとちゃんまで。
この街から出るための出口へと向かっている道中、私達は終始無言だった。
「もう帰るのぴょん?」
みうはもう少しこの街にいたいようである。
「だめ。また迷子にでもなったら大変だわ。それに、実験にされちゃうかもしれない・・・っ」
そこまで言うと、めうちゃんは突然、言葉を紡(つむ)いだ。
「えっ、実験って?」
私が聞くと、「ううん。なんでもないの」と笑顔であしらわれてしまった。
でも、なにはともあれ、無事、みうも発見できたし、それに、こんなに素敵な街を探検できたのだから・・・。
去る街を背に、未(いま)だに私の胸は、ドキドキしていたのだった。