8/11(優希)
人はきっと、皆、温(ぬく)もりを求めて生きている。
誰もがきっと、愛を求めて生きている。
しかし、その一方できっと誰もが、自分の生きる意味を探して彷徨(さまよ)い、悩み続けているのだ。
愛さこい村に戻ってきた俺達は、この愛さこい村に新たに住むことになった元(もと)アクア特殊部隊候補生の愛さ達のために、まず初めに家を建てることにした。
その間、新しく迎えられた住人達は、この村に住む愛さ達のためにと、畑の手伝いや家事の手伝いなどを率先してやってくれている。
「優希君、お茶持ってきたわよ」
この村の影の村長と言っても過言ではない、黄色(もとい、めうちゃん)が家造りをしている俺達の所までお茶と手作りのクッキーを運んできてくれた。
「ありがとうございます」
この村に建てる家は、皆、石造りの家だ。めうちゃんの「木を出来るだけ残して欲しい」という要望に答え、自然にある大きな石をそのままに壁や屋根として使うことで木を切らずに済(す)むのだ。
「素敵なお家ね」
めうちゃんが笑顔で言った。俺は自分達が造った家が褒められたので、つい顔が緩んでしまう。
「石だけでも結構造れるもんですね。この家なんか、3部屋の他に台所まで付いてるんですよ」
俺達の話を聞きつけて、他の作業をしていた愛さ達も集まり、気が付いたら次第にそこには小さな輪が出来ていた。
「そう・・・ありがとう・・・」
めうちゃんが、俺の顔を見据(みす)えて、ゆっくりと、そして穏やかにそう言った。
きっと、皆、この笑顔に癒されているんだろう。
そしてきっとこの優しさが、宇宙(せかい)を幸せにするのだ。
だからこそ、この笑顔を絶やさないめうちゃんは強いんだ、と思った。
この村はめうちゃんに守られている。この小さな体でも―――
いつしか、俺は絶えることのない笑顔に包まれていた。
まるで、めうちゃんがこの愛さこい村や俺達を温かく、見守っているかのように。
8/13(愛さ)
頑張った先には何があるのだろうか。
行き着いたその先には何があるのだろうか。
私はこのまま生きていても、何の意味があるのだろうか・・・
流れる血を見ることで、私は安らぎを感じていた。
生きている、ということを実感していた。
「生きている・・・」
そう、私は、生きている、という実感が欲しかったのかもしれない。
けれど、もうこれ以上、考えたくは無い。
ゆっくりと、休みたい・・・。
ベッドの上で横になり、ゆっくりと瞼(まぶた)を閉じる。
その暗闇の中でしか、私は生きられないのだ。
8/16(りう)
最近、愛さこい村で不可解な出来事がいたるところで起こっている。
「んっぴょっん♪んっぴょっん♪」
今日、私達はその不可解な出来事というのを確認するために、めうちゃんとみうと聖美さんとたるとちゃん、そして私というメンバー、名付けて「愛さこい村大運動会実行委員オンナノコんっぴょんチーム」(この名前の由来はみうの影響を多分に受けている)はその場所へと向かっていた。
「陽が強いから麦藁(むぎわら)帽子も忘れずに♪」
ちなみに、今の歌詞を歌ったのはめうちゃん。
その後に、みうの「んっぴょっん♪んっぴょっん♪」というリズミカルな歌声が続いてやってくる。
「みうは相変わらず元気なんだから・・・」
ちなみに、たるとちゃんは愛さこい村大運動会の実行委員では無かったのだが、そこに住むたるとちゃん以外全員が来年に行われる大運動会の実行委員の準備やら点検等の作業を行っていたために、ある日突然にバレてしまったのだ。そう―――めうちゃんが看板に「愛さこい村大運動会」という文字を書いている最中に。
「そろそろじゃない?」
そう聖美さんが指差した場所へと私達はだんだんと近づいてゆき、その不可解な出来事のソレを確認すると、みんな不思議そうな面持(おもも)ちでソレを囲み、輪になって上から見下ろしていた。
「これは・・・」
たるとちゃんが言う。
「人参です。」
そのままだった。
私達の見下ろす場所には、人参さんが二本、ぽつんぽつんと地面に生えていたのだ。周りには畑も何も無い。ただ一面に草原が広がっている。
「誰かが・・・植えたのかしら・・・」
めうちゃんの問いに私は答えた。
「こんな畑でも何でもないところに?」
もしかしたら、野生の人参さん・・・なのだろうか。
しかし、どう考えても野生の人参さんなんてこの島で今まで一度も見たことも無いし、聞いたこともない。もし、誰かが植えたのだとしたら、そんなことをする愛さといったら―――
自然と、周りにいる愛さ達は、ある一匹の愛さの方へと視線が集中する。
すると、そのみんなに注目されている愛さは、満面の笑みでこう答えたのだ。
「みうが人参さんを植える。それをみんなが食べる。そしてみうも食べて、また植える。自然の摂理ぴょん!」
「意味が分からないのぴょんっ!」
あまりの可笑(おか)しな回答に、ついツッコミを入れてしまっていた。周りにいた愛さ達はみんなくすくすと笑い出し始めている。
「みうちゃんは、他の場所にも人参さんの種、植えた?」
めうちゃんはそう言うと、みうは元気いっぱいの声で「んっぴょんっ!!!」と一言。
まぁ、なにはともあれ、これで愛さこい村で起こっている不可解な出来事というのは一段落したのだ。
「みうちゃん、これからもいっぱい人参さんの種をみんなのために植えてあげてね」
そう微笑みながら語りかけるめうちゃんに対してみうのこれまた元気いっぱいの「んっぴょんっ!!!」という返事を聞いてしまうと、また、たぶん、いや絶対にみうがこの愛さこい村にいる限り、不可解な出来事はこれからもずっと起こるのだろう、と思ってしまうのである。
とりあえず、私達はその場を後にし、帰宅することにした。その途中・・・
「わっ」
たるとちゃんの突然の声にいったいどうしたのだろうか、とみんなは振り向いた。
「・・・にん・・じん・・・」
恐る恐る答えるたるとちゃん。
「あらあら。かわいい人参さん。こんにちわ」
とめうちゃん。
私は透(す)かさず「みうはめうちゃん似ねっ」と言ったものだから、その場にいた一部を抜かした愛さ達は堪(こら)えきれずにくすくすと笑った。
「・・・んぴょん?」
共通項は、きっと、天然。
8/19(さくら)
今日、この愛さこい保育園に、不思議な愛さがやってきた。
その愛さは、ただじっと、目の前にいるこの子だけを見つめていたのだ。
しばらく私はその様子を見ていたのだが、一向にその動作に変化が起こりそうな気配も無い。
私は、ドアをノックし、3時のおやつをその愛さの前に差し出した。
するとその愛さは、たたたっと扉から廊下へと駆(か)けて出ていってしまったのだ。
今、考えてみると、私はその愛さの様子をじっと眺めていたほうが良かったのかもしれない。
この子にとってみれば、何かしらの変化があったのかもしれなかったのだから。